退職金課税の改正
長年勤め上げた会社からの退職金、あるいは将来のために積み立ててきたiDeCo(個人型確定拠出年金)の一時金は、私たちのセカンドライフを支える大切な資産です。これらの退職金に対する税金は、他の所得とは異なり、特別な計算方法が適用されます。しかし、2026年(令和8年)より退職金課税について大きな改正があります。
1. 現行の退職所得課税の仕組み:優遇される「退職所得」
所得税法において、退職金は「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」として「退職所得」に分類されます(所得税法 第30条第1項)。この退職所得は、他の所得(給与所得、事業所得など)とは合算されず、分離して課税される点が大きな特徴です。
退職所得の計算方法(所得税法 第30条第2項)
退職所得の金額は、原則として以下の計算式で求められます。
退職所得の金額 = (退職手当等の収入金額 - 退職所得控除額) ÷ 2
この「1/2控除」が、退職金課税における大きな優遇措置の一つです。
退職所得控除額の計算方法(所得税法 第30条第3項)
退職所得控除額は、勤続年数に応じて以下のように計算されます(施行令 第69条)。
- 勤続年数20年以下の場合:40万円 × 勤続年数(ただし、最低80万円)
- 勤続年数20年を超える場合:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)
例えば、勤続30年の場合、退職所得控除額は「800万円 + 70万円 ×(30年 - 20年)= 1,500万円」となります。つまり、1,500万円までの退職金であれば非課税となり、それを超える部分も1/2で課税されるため、税負担が大きく軽減される仕組みです。
2. 2025年度税制改正の方向性:厳格化される控除適用
令和7年度の税制改正では、この退職所得の優遇措置が一部見直される方向性が示されました。主な改正点は以下の通りです。
(1) 退職所得控除の調整規定の見直し
これまで、退職金とiDeCoの一時金を別の年に別途受け取る場合、重複して退職所得控除を適用できるケースがありました。今回の改正では、この調整規定が見直され、退職金を受け取る前にiDeCoの一時金を受け取った場合、従来の4年間から「9年間」の期間を空ける必要があるとされました。
これにより、連続して退職金等を受け取る場合の控除の重複適用が難しくなり、実質的な課税対象額が増加する可能性があります。
(2) 先にiDeCoを受け取る場合
一時金を受け取る年の前年以前19年内に会社の退職金を受け取っている場合、確定拠出年金の一時金にかかる退職所得控除額の計算において、重複する勤続期間(会社の勤続期間と確定拠出年金の加入期間)が調整(排除)されます。
3. 結論と今後の対策
重要なのは、退職金とiDeCoの一時金を受け取るタイミングです。安易に連続して受け取ると、想定以上の税金がかかる可能性があります。
今後の資産形成においては、以下の点を考慮しつつ、適切な対策を講じることが重要です。
- 退職金とiDeCo一時金の受取時期の検討:排除される期間を意識し、税負担を最小限に抑える受取時期を計画しましょう。
- iDeCoの年金受け取りも選択肢に:一時金ではなく、年金形式で受け取ることで公的年金等控除の適用を受けることが可能です。税負担の比較検討が必要です。
退職後の生活設計は、現役時代からの計画が不可欠です。税制改正の動向を注視し、ご自身の状況に合わせた最適な退職金受け取りプランを検討してください。
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